Story_1: 日本の自動車リサイクルの現状日本の自動車リサイクルは、世界トップレベルのリサイクル率
日本の自動車リサイクルは、世界最高水準のリサイクル率を誇る循環型システムとして確立されています。年間約250万台の使用済自動車が発生する中、使用済自動車全体のリサイクル率は95%以上を達成しており、これは欧州やアメリカと比較しても遜色ない、あるいはそれを上回る水準です。
この高い実績を支えているのが、2005年に施行された日本独自の「自動車リサイクル法」です。同法は、リサイクルの阻害要因となっていた自動車シュレッダーダスト(ASR)、エアバッグ類、フロン類の3品目について、自動車ユーザーが購入時にリサイクル料金を支払い、適正処理を保証する仕組みを構築しました。特にASRのリサイクル率は、法定基準値である70%を大幅に上回る97.2%(2024年)という驚異的な水準に達しています。
日本のリサイクル率が高い要因として、法制度による処理費用の確保、約3,000社の解体業者と約100社の破砕業者による技術力の高い作業、製鉄所やセメント工場など、強固な再資源化インフラの存在が挙げられます。特にASRについては、海外では埋立処分が主流であるのに対し、日本ではセメント製造での熱エネルギー利用などサーマルリサイクルとして有効活用しています。
今後は、マテリアルリサイクルの拡大に向けたインセンティブ制度の導入により、プラスチックやガラスなどの資源回収を促進し、さらなる資源循環の高度化を目指しています。
日本における自動車リサイクルの状況

Story_2: 「欧州ELV規制」の発行日本の自動車産業の国際競争力を維持・向上するために
2023年7月に欧州委員会が公表した「自動車の循環設計とELV管理規則案」は、従来の指令を規則に格上げし、EU全加盟国に直接的な法的拘束力を持つ画期的な制度です。この規則は、自動車の設計段階から廃棄に至るライフサイクル全体を対象とし、サーキュラーエコノミーへの転換を強力に推進します。
主要なポイントは、新車プラスチック部品への再生材利用義務化(施行から6年後に15%、10年後に25%まで段階的に引き上げ。再生材のうち20%は使用済自動車由来)、拡大生産者責任(EPR)の強化、車両循環性パスポート(DPP)による情報の電子的記録・共有の義務化などです。これらは2029年頃からの施行が想定されています。
この規則は、日本の自動車産業全体、特にサプライチェーン全体に甚大な影響を及ぼします。EU市場で車両を販売する日本の自動車メーカーは完全準拠が必須となり、対応できなければ市場から締め出されるリスクに直面します。また、素材メーカー、部品メーカー、商社など、EU向けに供給する全ての企業が、再生材の含有率や由来を証明できる体制構築を迫られます。
さらに、設計思想にも大きな転換が求められます。リサイクル設計(Design for Recycling)の導入によって、解体のしやすさや材料分別の容易性を設計段階から考慮する必要があり、開発プロセスやコストに影響を与えます。加えて、DPP対応のため、サプライチェーン全体で詳細なデータ管理とトレーサビリティ確保のシステム構築が必要となり、特に中小企業には大きな負担となる可能性があります。
一方、日本は世界トップレベルの自動車リサイクルシステムを有しています。この強みを活かせば、欧州ELV規則への対応は脅威ではなく、持続可能な自動車産業における競争優位性を築く機会となります。そのためにもサーキュラーエコノミーシフトを加速させることが重要です。
ELV規則のポイント
リサイクル設計の導入
解体のしやすさや材料分別の容易性など、設計段階からリサイクルへの配慮が求められる
再生材使用義務化
試行10年後に新車プラスチック部品への再生材25%以上の利用義務化(うち20%は使用済自動車由来)
生産者責任の強化
拡大生産者責任(ERP)により設計から回収・処理まで製品ライフサイクル全体で責任が求められる
情報の電子記録・共有義務化
車両循環性パスポート(DPP)対応のため、サプライチェーン全体でトレーサビリティ確保が必要
対象範囲の拡大
乗用車、小型商用車だけでなく、バスやトラックなどの大型車両も対象に
Story_3: 日本の自動車産業が直面する課題サーキュラーエコノミーシフトへ、克服すべき「5つの課題」
しかし、日本の自動車リサイクルはサーキュラーエコノミーへの本格的な移行に向けて、複数の構造的課題に直面しています。特に欧州ELV規則による再生材利用義務化という国際的な潮流の中で、これらの課題への対応は待ったなしの状況です。
第一に、「資源の海外流出」という構造的問題があります。中古自動車輸出が過去最高の約170万台/年に達し、使用済自動車は約300万台から約250万台へ減少しました。こうした中で、鉄・アルミ・銅スクラップ合計680万トン以上が海外流出し、国内でマテリアルリサイクルされた再生プラスチックの約7割も輸出されています。さらに、近年急増する不適正なスクラップヤードも資源の海外流出を加速させており、貴重な2次資源の国内循環が進んでいません。
第二に、「サーマルリサイクル依存からの脱却」が求められています。ASRのリサイクル率97.2%の大部分は熱回収によるもので、廃プラスチックの約6割が熱回収に留まっています。しかし、国際規制はマテリアルリサイクルなど、サーマルリサイクルに依存しない資源循環の高度化を求めており、技術面・コスト面での転換が大きな課題となっています。
第三に、「再生材のQCD(品質・量・コスト)課題」が存在します。自動車産業が求める高い品質基準への対応、大口・長期契約に耐えうる安定供給体制の構築、そしてバージン材との価格競争力の確保が必要ですが、いずれも道半ばです。2030年時点の供給ポテンシャルは5.9~7.6万トン程度で、2041年の目標20万トンには大幅に不足しています。
第四に、「動脈産業と静脈産業の連携の必要性」があります。情報共有の強化やリサイクルを前提とした設計、解体効率の向上など、自動車産業とリサイクル事業者のより一層の協働が求められています。
第五に、「静脈産業の構造的な制約」という課題があります。日本の静脈産業は、地域密着型の中小事業者が中心となり高い現場力を発揮している一方、近年求められる設備投資が大規模化・高度化していることから単独での投資判断が難しい局面に直面している事業者も少なくありません。
これらの5つの課題は相互に関連しており、真のサーキュラーエコノミー実現には、制度設計、技術開発、設備投資、そして動静脈連携の本格化が不可欠です。
課題1資源の海外流出
中古車輸出が増加し再生材のもとになる使用済自動車が減少

課題2サーマルリサイクルへの依存
ASRの6割が熱回収に留まる

課題3再生材のQCD課題
品質・量・コストのベスト・バランスの追求

課題4動脈産業と静脈産業の連携が必要
業界横断的な活動により情報共有、対話を促し協業を強化

課題5静脈産業の構造的な制約
業務連携により事業基盤を強化し規模の経済を実現

提供:株式会社デンソー
Story_4:「Car to Car/X to Car循環モデル」の構築へ産官学連携で取り組む日本の自動車サーキュラーエコノミーシフト
日本の製造業はGDPの約2割を占めています。そのうち半分を担う自動車産業は、国内経済の中核的存在です。現在は、年間約900万台の新車を製造し、約半分を輸出していますが、欧州でのリサイクル材使用義務化、カーボンニュートラル推進、資源安全保障などによって、天然資源(1次資源)からリサイクル材(2次資源)を使用したモノづくりへの転換が求められています。品質が担保されたリサイクル材の創出は、日本の成長戦略上非常に重要な立ち位置にあります。
そうした中、政府は三つの柱で戦略的対応を推進しています。一つめは、環境省による「資源循環ネットワーク形成・拠点構築構想」です。令和6年度補正予算で計上された10億円を投じて、使用済自動車を含む12カテゴリー※を対象とした資源循環ネットワーク形成・拠点構築に関するケーススタディ調査を実施し、全国的な資源循環体制整備に向けた検討を進めています。二つめは、経産省・環境省が立ち上げた「産官学コンソーシアム」です。2031年から段階的に再生プラスチック使用率を引き上げ、2041年に全生産車両の20%(20万トン/年)達成を目指し、Car to Car(使用済自動車由来)とX to Car(その他由来)の両輪で再プラ集約拠点構築、技術産業化、リサイクル設計推進を進めます。三つめは、マルチパスウェイ戦略によるGX推進として、電動化・水素・合成燃料など多様な道筋でカーボンニュートラルを実現します。
また、産業界では「BlueRebirth協議会」が先進的取り組みを推進しています。 2025年6月に設立された同協議会は、動脈産業と静脈産業のバリューチェーン融合による「Car to Car」エコシステム構築を目指しています。中核となるのは、「自動精緻解体システム」です。ロボティクスとAIを活用し、ELV重量の90%以上回収、年間100万台処理を目標としています。
これらの取り組みは、世界屈指の実績を誇るリサイクルシステムの強みを活かし、国際競争力強化と持続可能な成長を実現する成長戦略として展開しています。
12カテゴリー(廃プラスチック、鉄スクラップ、アルミスクラップ、銅スクラップ、e-scrap、廃食用油、使用済自動車、使用済リチウムイオン電池、使用済太陽光パネル、使用済風力発電設備など)
産官学連携で自動車サーキュラーエコノミーシフトを推進

Story_5:静脈産業に求められる変革「廃棄物処理業」から「再生原料メーカー」へ
日本の自動車リサイクルを支える静脈産業は、サーキュラーエコノミーへの本格的転換に向けて、従来のビジネスモデルからの転換が求められています。使用済自動車を「適正に処理する」という役割にとどまらず、高品質な再生資源を安定的に製造・供給する「再生原料メーカー」への転換が求められています。これを実現するためには、いくつかの課題を乗り越えなくてはいけません。
第一に「構造的脆弱性からの脱却」が挙げられます。解体事業者をはじめとする静脈産業は中小規模の事業者が中心であり、EV化や高度化する車両構造に対応するための設備投資や技術開発を、単独で進めることが難しい局面に直面しています。自動車産業が求める高品質な再生材を安定供給するには、事業の集約化・大規模化による規模の経済の実現、再生プラスチック集約拠点の活用、資源回収を促進する仕組みへの参画、さらには自動精緻解体システムなど先進技術の導入、高度選別・品質検査体制の構築が不可欠です。また、EV化に伴うバッテリー処理、ADAS搭載車両など新技術への対応力強化も求められます。
第二に「動脈産業との連携深化」も重要です。これまで設計情報や素材情報が共有されてこなかったことが、解体・リサイクルの効率化を難しくしてきました。今後は、車両設計情報の共有や解体マニュアルのデジタル化、トレーサビリティ基盤の構築など情報連携の推進が必要です。さらに、設計段階からリサイクルを考慮するDfR(Design for Recycling)への参画を通じて静脈産業の現場知見を設計にフィードバックすることで、解体効率の向上が期待されます。加えて、動脈産業のニーズに基づいた需給マッチングの最適化も重要な要素です。
第三に「事業モデルの転換」も挙げられます。従来の「車両を解体し部品・スクラップを販売する」モデルから「高品質な再生材を製造・販売する」モデルへの転換に加え、品質に応じた価格設定や環境価値の経済価値化が重要となります。さらに、品質管理やデータ分析などの専門人材育成、従業員の意識改革、業界再編や協業モデル構築を通じて、バリューチェーンの一翼を担う存在へと進化することが求められています。
このように、静脈産業は「終わりから始まるモノづくり」の主役として、持続可能な自動車産業を支える不可欠なパートナーへと変革することが期待されています。
自動車サーキュラーエコノミーにおける「再生原料メーカー」の役割を果たす











