
これからのプラスチックを考える(前編)
2018年12月26日

浜辺に打ち上げられ、背丈ほどに積み重なったプラスチックごみ(以下「プラごみ」)の山。
そんな光景が日本各地で見られるようになりました。
日本に限ったことではなく、世界各地で報告されています。
目次
海岸を埋め尽くすプラスチックごみが、教えてくれること
浜辺に打ち上げられ、背丈ほどに積み重なったプラスチックごみ(以下「プラごみ」)の山。
そんな光景が日本各地で見られるようになりました。
日本に限ったことではなく、世界各地で報告されています。
海を漂うごみ、いわゆる「海ごみ」は、海流や風、海岸の地形といった条件により、特定の地域に集中して漂着します。そのため海ごみが集まる浜辺には、何度清掃しても繰り返し大量のごみが打ち上げられてしまいます。ごみには流木や金属、ガラス、紙類なども含まれますが、ほぼすべての海岸で7~9割をプラごみが占めています。
これらのプラごみはどこから来るのでしょうか。調査では、日本海沿岸には中国・韓国からのプラごみが、ハワイでは日本からのものが多いことがわかっています。海ごみが「国境のない汚染」と呼ばれるゆえんです。
また、世界中から流出したプラごみが沖に流され、潮の流れに沿ってベルト状に溜まっていく海域が、複数確認されています。その最大の海域はカリフォルニアとハワイの間にあり、「太平洋ごみベルト」と呼ばれています。そこにはおよそ8万tのプラごみが、日本の国土の2〜4倍の面積に広がっていると試算されています。海は巨大なプラスチックのごみ捨て場になっているのです。
海を漂うプラごみは、私たちに多くの問題を突きつけます。そのひとつが、海洋生物への影響です。
2015年、絶滅が危惧されるウミガメの鼻にプラスチック製のストローが刺さっている動画が拡散され、ハッシュタグ「#StopSucking(吸うのをやめよう)」運動に発展。スターバックスがプラスチック製ストローの使用廃止を表明するなど大きな社会現象を生み出しました。
2018年には、胃に約30㎏ものプラごみが溜まって餓死したマッコウクジラがスペインの浜辺に打ち上げられ話題に。ペンギン、アシカ、海鳥、魚類……、プラごみが体に絡みついたり、体内に取り込まれて窒息死や餓死したりする海洋生物の痛ましい映像が報道されるたび、世界的な使い捨てプラスチック廃止論が高まっていきました。
海ごみ問題としては、船舶航行への障害や、観光・漁業への影響なども懸念されていますが、もっとも深刻なのは目に見えない問題かもしれません。サイズ5㎜以下の微細なプラスチック粒子「マイクロプラスチック」が、生態系や人体に及ぼす影響です。
プラごみは自然分解されることのないまま海を漂い、紫外線や風、波の力で破片になっていきます。1枚のレジ袋から、数千個のマイクロプラスチックが生まれます。プラスチックには有害物質が付着しやすく、これを貝や魚などが体内に取り込み、それを人間が食べます。健康に及ぼす影響はまだ不明ですが、実際に人の脳や筋肉、便からも発見されています。
こうした事態を受け、すでに世界30か国以上がレジ袋の使用を規制。2018年10月29日には、世界の250の企業や団体が、2025年までにプラスチック包装をすべて再利用、もし くは堆肥化できるものにすることなどを盛り込んだ共同宣言に署名しています。
世界と日本の プラスチックリサイクル事情
プラスチックがこの世に登場してから半世紀を超えました。
軽くて腐らず、丈夫で加工しやすいプラスチックは、20世紀の大量生産・大量消費社会を支える素材として活用され、さまざまな形で生活の中に溶け込んでいます。
世界のプラスチックの生産量をみると、1964年には1500万tだったものが、2014年には3億1100万tと20倍に増加しています。
しかし21世紀に入り、持続可能な社会への移行が求められています。プラスチックの原料である石油も貴重な枯渇資源。海ごみ問題と相まって、プラスチックのリサイクルは今や世界でもっともホットなテーマのひとつです。
OECDは「世界中でリサイクルされているプラスチックは15%に過ぎない。残り25%はエネルギー回収のために焼却され、 60%が埋め立てか単純焼却、あるいは散乱して海洋に流れ出ている」と警鐘を鳴らします。
OECDの定義する「リサイクル」とは、「マテリアルリサイクル」を指します。日本では、燃やして熱を利用する「サーマルリサイクル」が主流ですが、欧米ではそれを「エネルギーリカバリー」と表現し、リサイクルとしては下位に位置付けています。そのためOECD加盟国の34か国中、リサイクル率では日本は29位(2013年当時)という評価になってしまうのです。
世界的にもプラスチックのマテリアルリサイクル率は低調です。その理由のひとつに、「選別の難しさ」があります。プラスチックは種類が多く、それぞれの特質を活かして多方面に使われています。その成分ごとに選別しないと、 質の良いマテリアルリサイクルはできません。なぜなら同じ石油から作られるとはいえ、それぞれ化学構造が違うため、混ぜ合わせるとまったく違ったものとなってしまうからです。プラスチックは外見上どれも似ていて判別しにくく、これが再生利用の大きな障害となっています。
こうした中、プラスチックのリサイクルにおいて世界をリードするのがヨーロッパ勢です。プラごみが環境問題として取り上げられるようになった1990年代に、自治体による焼却や埋め立てといった従来の処分方法からリサイクルへと舵を切ったフランスやドイツでは、その役割を民間が担いました。現在、リサイクル・メジャーとして世界に進出しているヴェオリアやスエズ、レモンディスなどは、これを契機に発展した企業です。同時に、光学式の選別技術も急成長を遂げました。
多種多様で微細な廃棄物を1個ずつ吹き飛ばし、光センサーにより高速で選別する技術は、ヨーロッパの独擅場です。この技術と廃棄物処理の民営化が両輪となり、ヨーロッパの環境ビジネスを発展させてきました。そして今、海ごみ問題をバネに世界へとビジネスの場を広げようとしているのです。
焼却技術では世界トップレベルの日本では、ごみの回収ルートが産業廃棄物系 と一般廃棄物系とに分かれます。産業廃棄物に関しては、多くの企業が技術開発に取り組んでおり、樹脂の分別度合いや汚れ具合に応じて、マテリアル、ケミカル、サーマルと、リサイクルの併用が行われています。
一方、家庭や店舗、事務所から出るプラごみでは、ペットボトルがマテリアルリサイクルの主役。その他のプラごみは、多様な樹脂が混在して分別が難しい、汚れが激しい、かさばるため集めても重量密度が低く、散在していて回収運搬にかなりのエネルギーを要するなどの理由から、主にサーマルリサイクルが行われます。
プラスチックには石炭や石油と変わらない発熱量があるので、世界トップレベルの高性能な焼却炉で効率よく燃やし、その熱や排ガスを新たなエネルギー源として使用しているのです。
中国ショックが引き起こす リサイクルの大転換
2017年、世界のリサイクル業界に激震が走りました。廃プラスチック(以下「廃プラ」)を「資源」として世界中から輸入してきた中国が、2017年12月31日をもって受け入れをストップしたのです。いわゆる「中国ショック」です。
中国は、海外から年間1000万tもの廃プラを受け入れていました。世界の工場として経済成長を遂げてきた中国では、石油よりも安い廃プラを原料にして、家電製品や自動車の部品、文房具などの製品を作っていました。
しかし、廃プラと生活ごみが分別されないままプレスされたものや、汚染物質が大量に混入する粗悪なものが大量に持ち込まれ、環境汚染や健康被害が深刻化していました。中国は、こうした汚染度の高い廃棄物の国内流入を断ったわけです。
実は、中国への最大の輸出国は日本でした。日本の廃プラの総輸出量は年間およそ150万t。このうち約9割(年間排出量のおよそ15%)が中国(香港経由含む)に輸出されていました。一時はマレーシアやタイなどに輸出先を求めたものの、環境保護の機運はどの国でも同じ。今ではタイも受け入れが止まっています。
輸出ありきで成立していたリサイクルの図式が崩れ、行き場を失った廃プラが輸出業者の港の倉庫や処理業者のストックヤードに滞留しています。今後は、処理会社の受け入れ制限や処理価格の高騰も予想されます。
世界に目を向ければ、10年以上前からプラスチック製品の「リデュース・リユース」への取り組みが進んでおり、使い捨てプラスチックや、発泡スチロールの使用禁止、生分解性プラスチック製レジ袋の使用などの対策がすでに50か国で実施されています。
一方、日本では2018年10月に環境省がようやく小売店でレジ袋の有料化を義務付けする方針を固めることに。プラごみに対する日本人の意識は、世界標準からは遅れていたといえそうです。
しかし、個別の日本企業に目を向ければ、使用済みペットボトルの再利用や、使い捨てプラスチックの使用削減に向けた自主的な取り組みが始まっています。
再生プラスチックの利用促進には、バージンプラスチックが持つ価格や品質面での優位性を覆すだけの何かが必要です。掛け声だけでは広がらないという過去の経験から、法による利用の義務化や課税などの経済的手法の導入が不可欠と考えるのが世界の潮流です。すでに欧州では、プラスチック製品の再生材利用を義務化したり、バージン材に課税するといった対策まで検討され始めました。
日本では、生分解性プラスチックなど個別具体的な技術の育成に主眼が置かれ、政策による再生プラスチック市場の育成といった議論はあまり聞かれません。日本のプラスチック関連産業が世界でガラパゴス化しないよう、官民一体となって取り組むべき時が来ています。