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廃棄物処理法のヒント 法令トピックス

「投棄ではない、一時保管しているだけ」は通用しません。

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この記事のポイント

・不法投棄と不適切埋立は異なるが、切り分けは難しい
・岐阜県の土砂崩れで発覚した陶料会社の事件は、一時保管と言い逃れているが不法投棄として立件されるだろう

目次

白い土砂の正体

2017年8月、白い土砂が何らかの人工物を彷彿とさせた岐阜県の土砂崩れ。
やはり産業廃棄物だったとして広く報道されたため、ほとんどの方がご存知でしょう。

日経エコロジーの10月号のp.18の記事にも私のコメントが掲載されていますが、行政としてはこれが不法投棄にあたるかどうかは、現時点ではあまり問題になっていないでしょう。
とりあえず緊急時対応として「土砂崩れを何とかして、住民の生活に支障が出ないようにする」ことが最優先で、渦中の陶料会社を捕まえることなど警察の仕事ですので二の次です。

緊急時対応としては、土砂を除去したり、周辺の民家の復旧を支援する他に、陶料会社にもできる限りの責任を果たさせる必要があります。
岐阜県はこの陶料会社に対し、法第19条の5第1項の規定に基づき、これ以上の流出を防ぐための措置を取らせる命令を出し、その後さらに全量撤去する旨の命令を出しています。
法第19条の5は、基準に合わない保管、収集、運搬、処分を行った者に対し、支障の除去等の措置を命ずることができることを規定しています。

岐阜県の報道発表資料によると、
「岐阜県瑞浪市釜戸町3115番地の2外の事業場にある不要となった窯業原料について、当該地からの飛散及び流出等を防止するための応急措置を講じること。」
「本件土地に残存している本件産業廃棄物を全量撤去すること。」
という措置命令だったようです。
これは「不適正保管」に対しての措置命令ですが、「不適正(埋立)処分」でも「不法投棄」でも同じように措置命令が出せます。

「不適正保管」と「不適正(埋立)処分」と「不法投棄」の違い


さて、「不適正保管」と「不適正(埋立)処分」と「不法投棄」の違いですが、条文上はそれぞれ「保管」「処分」「みだりに捨てる」と異なります。しかし、現実世界に当てはめると明確に切り分けをすることは難しいのです。

ただ、不適正保管、つまり保管基準違反ですが、これには直罰がありませんので、警察としてはこれだけでは手が出せません。
そこで、警察は不法投棄で立件するつもりで捜査しています。
ポイントは「保管」ではなく「捨てた」ことをどう証明できるか、でしょう。

分かりやすく言うと、
「お前、捨てただろう」
「いえいえ、保管してるだけです。いつかちゃんと処理します」
というやり取りでしょうか。

なお、行政が不適正保管に対して措置命令を出したからと言って、裁判で不法投棄が認められない、ということはありません。

では、保管はいいとして、不適正(埋立)処分と不法投棄との関係はどうでしょうか。

不法投棄(捨てる)は不適正処分に含まれるという考え方がありますが、必ずしもそうとは言えないでしょう。
例えば、産業廃棄物を市の清掃工場(一般廃棄物の焼却施設)にこっそり捨てる行為は、不法投棄に該当するという判例もあります。
だからと言って、これは埋立でもありませんし、市の清掃工場ですので適正処分になるでしょう。
それに、車の窓からポイ捨てするのは、不法投棄だとしても、処分する意思がある行為とはとても思えません。

ということで、この3つはなかなか関係が複雑です。
「捨てたのでもなく、処分したのでもない」との言い訳ができたとしても、「保管をしていない」という言い逃れはできないはずです。
そのため岐阜県としては、不適正保管を採用して措置命令を出した、ということです。
その意味で、不適正保管は最後の砦ですし、行政としてはここから措置命令を出せれば効果は十分。もしこれに従わなければ、罰則もあります。不法投棄より違反の立証が楽ですから警察も動きやすいので、一石二鳥ということです。

とはいえ、今回は、陶料会社の会長が不法投棄の容疑を認めて、家宅捜索をしているのですから、すんなりと不法投棄で立件できるのでしょう。

(リバーグループ/メジャーヴィーナス・ジャパン株式会社 シニアコンサルタント・行政書士 堀口昌澄)