ナフサとは?プラスチック原料の仕組みと再生資源の重要性
2026年07月10日

ホルムズ海峡の封鎖リスクが報じられるたびに、エネルギー価格への影響が注目されます。しかし、影響を受けるのはガソリンや電力だけではありません。
実は、私たちの身の回りにあるプラスチック製品も、こうした国際情勢から大きな影響を受けます。
プラスチックの多くは、原油から作られる「ナフサ」と呼ばれる原料をもとに製造されています。しかし、「ナフサ」という言葉を初めて聞いたという方も多いのではないでしょうか。
日本は、このナフサの調達の面で海外に大きく依存しており、特に中東地域との関わりが深いことから、ホルムズ海峡の情勢はプラスチック産業にも影響を与える可能性があります。
本記事では、ナフサとプラスチックの関係、ホルムズ海峡封鎖による影響、そして再生プラスチックが持つ可能性についてわかりやすく解説します。
目次
ナフサとは
私たちの身の回りには、食品容器や電化製品、自動車部品など、さまざまなプラスチック製品があります。その多くは、「ナフサ」と呼ばれる原料をもとに製造されています。
ナフサは、日本が海外からの輸入に大きく依存している資源でもあります。まずは、ナフサがどのような役割を果たしているのかについて、プラスチックとの関係から確認していきましょう。
ナフサはプラスチックの原料
ナフサとは、原油を精製する過程で得られる石油製品の一種です。ガソリンに似た透明な液体であり、日本では主に石油化学産業の原料として利用されています。ナフサは単独で使われるだけではなく、多くの化学製品を生み出す製品として重要な役割を担っています。
ナフサを分解すると、エチレン、プロピレン、ブタジエン、ベンゼン、トルエン、キシレンといった石油化学基礎製品が得られます。これらは石油化学産業の基盤となる原料であり、さらに加工されることでさまざまな中間製品へと変わります。
そして中間製品から製造されるのが、プラスチックや合成繊維、合成ゴム、合成洗剤、塗料などです。スマートフォンやパソコン、自動車部品、衣類、包装材など、私たちの生活に欠かせない製品の多くがナフサを起点として生まれています。
また、日本の石油製品需要の中でもナフサは大きな割合を占めています。石油化学工業協会によると、石油製品需要に占めるナフサの割合は24.9%で、ガソリンに次いで2位となっています。このように、ナフサは石油化学産業を支える重要な原料であることから、その供給状況はプラスチック製品の生産や価格にも大きな影響を与えます。
出典:石油化学工業協会「石油化学用原料ナフサ」
ナフサからプラスチックを作る方法
ナフサからプラスチックを作る最初の工程では、ナフサ分解炉が使用されます。高温の分解炉にナフサを通すことで、分子が細かく分解され、エチレンやプロピレン、ブタジエンなどの基礎製品が生産されます。これらは石油化学製品の原料として利用される重要な物質です。
例えば、エチレンはポリエチレンの原料となり、レジ袋や食品包装フィルム、容器などに使われています。プロピレンはポリプロピレンの原料となり、自動車部品や家電製品、日用品に広く利用されています。ブタジエンは合成ゴムの原料として、タイヤや工業用品の製造に欠かせません。
さらに、ナフサ分解の過程ではイソプレンやベンゼン、トルエン、キシレンなども生産されます。イソプレンはタイヤや医療用品に使われる合成ゴムの原料となり、ベンゼンやキシレンなどは、樹脂や繊維、塗料などの製造に活用されています。
このように、ナフサは分解・精製を経てさまざまな基礎製品へ姿を変え、それらがさらに加工されることで、私たちの身の回りにある多種多様なプラスチック製品が生み出されています。
日本におけるナフサの輸入状況
日本で使用されるナフサは、輸入分に加え、国内で生産される分もあります。ただし、国内で生産されるナフサも、その原料となる原油の多くを海外からの輸入に頼っています。そのため、日本の石油化学産業は原料となる原油について、海外への依存度が高い状況です。
経済産業省の資料によると、2024年におけるナフサの調達先は、中東が約4割、国内で生産されるナフサが約4割、その他の地域からの輸入が約2割という構成になっています。
このため、国内で生産されるナフサを含め、日本で使用されるナフサは、国際情勢の変化や物流の混乱によって原油の供給に影響が生じると、安定した調達が難しくなる可能性があります。特に中東は日本が輸入する原油の主要な供給地域であり、その動向はプラスチックをはじめとする石油化学製品の安定供給にも大きな影響を与える可能性があります。
また、石油化学工業協会の統計を見ると、近年も国産ナフサと輸入ナフサを組み合わせながら安定供給が図られています。国内需要の変化や原油価格、国際情勢などに応じて調達先の多様化も進められており、安定した原料確保は日本のプラスチック産業や化学産業を支える重要な課題となっています。こうした背景から、原料調達リスクを低減する手段の一つとして、再生資源の活用にも注目が集まっています。
出典:経済産業省「ナフサについて」
出典:石油化学工業協会「石油化学用原料ナフサ」
ホルムズ海峡封鎖の影響
ナフサがプラスチック産業を支える重要な原料である以上、その供給網に問題が発生すれば幅広い産業へ影響が及びます。特に近年は中東情勢の不安定化によって、世界有数のエネルギー輸送ルートであるホルムズ海峡の重要性が改めて注目されています。
ここでは、ホルムズ海峡が果たしている役割と、機能が低下した場合に日本のナフサ供給へどのような影響が及ぶのかについて解説します。
ホルムズ海峡の役割
ホルムズ海峡は、ペルシャ湾とオマーン湾を結ぶ海上交通の要所です。サウジアラビアやアラブ首長国連邦、カタールなど中東の主要産油国から輸出される原油や天然ガスの多くが、この海峡を経由して世界各国へ運ばれています。そのため、ホルムズ海峡は世界のエネルギー供給を支える重要なインフラとして位置付けられています。
近年は中東情勢の緊張が高まるたびに、ホルムズ海峡の安全な航行への影響が懸念されています。海峡そのものが完全に封鎖されなくても、船舶の運航制限や保険料の上昇、輸送の遅延などが発生する可能性があり、世界経済への影響が注目されています。
JETROによると、原油や液化石油ガス(LPG)、液化天然ガス(LNG)や石油化学製品の相当量がホルムズ海峡を通過していました。そのため、ホルムズ海峡で問題が発生すると、原油だけでなく石油化学原料の供給にも影響が及ぶ可能性があります。
このような状況は日本にも大きな影響を及ぼします。国内生産分を含めても、日本の石油化学産業は中東由来の資源に大きく依存しており、その多くがホルムズ海峡を経由しています。海峡の機能が大きく損なわれた場合、ナフサの調達コスト上昇や供給不足につながる可能性があり、日本の石油化学産業における大きなリスクとなっています。
出典:JETRO「UNCTAD、ホルムズ海峡の混乱がエネルギーと肥料供給に影響と報告」
出典:JETRO「日本の4月の石油化学製品生産は前月より増加、前年同月比で減少も在庫活用や中東以外から調達」
プラスチック製品への影響
ここまでに紹介した通り、ナフサから作られる製品は、食品容器や包装材、医療機器、自動車部品、建材、農業用フィルムなど幅広い用途で利用されています。そのため、ナフサ供給に問題が発生すると影響は石油化学業界だけにとどまりません。
例えば食品業界では、弁当容器や包装フィルムなどの供給に影響が及ぶ可能性があります。医療分野では注射器やチューブ、各種ディスポーザブル製品などの原材料確保が課題となる場合があります。また、自動車産業では樹脂部品やゴム部品の調達コスト上昇が発生し、製造計画へ影響を与えるでしょう。
さらに、建設業界で使用される断熱材や配管材、農業分野で利用されるハウス用フィルムや資材なども石油化学製品を原料としています。ナフサ供給が長期間停滞した場合、これらの製品の原材料不足や価格上昇につながる恐れがあります。
市場から製品が直ちに消えるわけではありませんが、供給不安が長期化すれば企業は在庫確保を優先し、物流や製造コストの上昇も重なることで、さまざまな製品価格へ影響が波及する可能性があります。ホルムズ海峡の問題が注目される背景には、このようなサプライチェーン全体への影響があるのです。
政府の対応
ホルムズ海峡の情勢悪化に備え、日本政府は原料供給の安定化に向けた対策を進めています。具体的には、中東に依存している状況を脱するために米国や南米などからの代替調達を拡大するとともに、国内の石油精製設備を活用した供給体制の強化を図っています。
また、石油化学製品の供給網が直ちに停止しないよう、業界全体で在庫の状況も確認されています。経済産業省によれば、調達済みの輸入ナフサと国内で生産するナフサを合わせた2カ月分と、川中製品(最終的な製品になる前の中間段階の化学製品)の在庫2カ月分により、少なくとも国内需要の4カ月分を確保できる見通しが示されています。
加えて、政府は関係省庁や業界団体と連携しながら物流状況や在庫水準を継続的に監視しています。現時点では直ちに国内でナフサやプラスチック原料が不足する状況にはないものの、今後の情勢次第では追加対策が講じられる可能性があります。
このように、日本は代替調達ルートの確保と在庫管理を組み合わせることで、供給リスクの低減に取り組んでいます。
出典:経済産業省「中東情勢を踏まえた燃料油・石油製品の安定供給確保及び重要物資の安定的な供給確保のための対応方針(案)」
再生プラスチックの活用が期待される3つの理由
ホルムズ海峡の問題からも分かるように、日本のプラスチック産業はナフサの安定供給に大きく依存しています。そのため近年は、使用済みプラスチックを再び資源として活用する「再生プラスチック」への期待が高まっています。
再生プラスチックの利用拡大は、資源確保だけでなく、地政学リスクや環境負荷の低減にもつながる可能性があります。一方で、本格的な資源循環を実現するためには解決すべき課題も残されている状況です。
① 化石資源依存を減らせる
再生プラスチックの活用が期待される理由の1つは、化石資源への依存を減らせるためです。現在、多くのプラスチックはナフサを原料として製造されています。これは、新たなプラスチックを生産するたびに石油資源を消費することを意味します。
一方、使用済みプラスチックを再生原料として活用できれば、新たなナフサの使用量を抑えることが可能です。限りある化石資源の消費を抑制しながら、社会に既に存在する資源を繰り返し利用できるようになります。
すべてのプラスチックを再生材へ置き換えることは容易ではありません。しかし、再生利用の割合を高めることで、化石資源への依存度を段階的に引き下げる効果が期待されています。
② 地政学リスク低減につながる
再生プラスチックの活用は、地政学リスクの観点からも重要です。日本はナフサをはじめとする化石資源の多くを海外からの輸入に頼っており、国際情勢の変化による影響を受けやすい構造となっています。
ホルムズ海峡のような重要な輸送ルートで問題が発生すると、原料価格の上昇や供給不安につながる可能性があります。こうしたリスクを完全になくすことはできませんが、国内で回収したプラスチックを資源として再利用できれば、海外資源への依存度を抑えられます。安定した資源確保のためには、国内で資源を循環させる仕組みづくりが重要です。国内で回収・再資源化したプラスチックを再び製品に活用できれば、海外からの資源調達リスクを低減できるため、経済安全保障の観点からも重要な取り組みといえます。
③ CO2排出削減につながる
再生プラスチックの活用には、温室効果ガスの排出削減というメリットもあります。ナフサからプラスチックを製造する場合、原油の採掘、輸送、精製、製造といったさまざまな工程でエネルギーが消費されます。その結果、多くの二酸化炭素が排出されます。
これに対し、使用済みプラスチックを再生原料として活用できれば、石油の採掘からナフサ製造までの工程で必要となる資源やエネルギーの使用量を抑えられるため、ライフサイクル全体での二酸化炭素排出量の削減が期待できます。資源循環と脱炭素を同時に進められる点は、再生プラスチックの大きな強みといえるでしょう。
経済産業省によると、日本では廃プラスチックの約84%が有効利用されていますが、その内訳を見ると約57%は焼却時の熱利用です。これはエネルギー利用の一種であり、新たなプラスチック原料として再利用されているわけではありません。
今後は単なる焼却利用ではなく、使用済みプラスチックを原料として循環させるマテリアルリサイクルやケミカルリサイクルを拡大していくことが、資源循環のさらなる促進につながると期待されています。
出典:経済産業省「『トランジションファイナンス』に関する化学分野における技術ロードマップ」
なお、リバーはプラスチックリサイクルについてコンサルティングを実施しています。興味のある方が以下をお読みください。
再生利用には高度な選別が必要
再生プラスチックの活用拡大には課題もあります。その1つが、使用済みプラスチックの高度な選別です。単に回収量を増やすだけでは、質の高い再生資源を安定的に供給することはできません。
現在、日本では多くの廃プラスチックが回収されていますが、そのすべてが新たなプラスチック原料として再利用されているわけではありません。再生材として利用するためには、不純物や異物を除去し、品質を確保する必要があります。
特に問題となるのが樹脂の種類です。プラスチックにはポリエチレンやポリプロピレン、PETなどさまざまな種類があり、異なる樹脂が混ざると再生材の品質が低下します。しかし、見た目だけで素材を判別することは難しく、手作業による選別には限界があります。
このような状況を受け、近年は、近赤外線センサーなどを活用した自動選別技術が普及しつつあります。プラスチックの材質を瞬時に判別し、高純度で回収できるようになったことで、再生利用の可能性が広がっているのです。
一般的な選別工程では、まず異物除去を行い、その後に手選別や機械選別を組み合わせながら素材ごとに分別します。さらに破砕や洗浄を経て再生原料として利用されます。今後、再生プラスチックの利用を拡大していくためには、こうした高度な選別技術のさらなる普及と高度化が欠かせません。高純度でプラスチックを選別できるようになれば、再生材の用途が広がり、バージンプラスチックの使用削減にもつながります。そのため、高度選別技術は国内資源循環を支える重要な基盤技術といえるでしょう。
まとめ
ナフサはプラスチックをはじめとする多くの石油化学製品の原料ですが、日本はその多くを海外資源に依存しています。そのため、ホルムズ海峡のような重要な輸送ルートで問題が発生すると、原料供給や価格に影響を受ける可能性があります。
資源の多くを海外からの輸入に頼る日本では、国際情勢の変化による供給リスクを完全に避けることはできません。一方で、日本国内で排出される使用済みプラスチックは、見方を変えれば貴重な資源でもあります。だからこそ、使用済みプラスチックを再び資源として活用し、国内で循環させる仕組みづくりが重要になっています。特に、高品質な再生プラスチックを安定供給するためには、高度な選別技術の普及が欠かせません。
リバーグループでは、化学メーカーとの業務提携を通じて、使用済自動車由来プラスチックのマテリアルリサイクルに取り組んでいます。また、2026年度中の開設を予定している「市原事業所袖ヶ浦プラスチックソーティングセンター(仮称)」では、高度な選別技術を活用し、再資源化のさらなる高度化を目指しています。
こうした取り組みは、バージンプラスチックへの依存低減だけでなく、国内資源循環の推進や資源調達リスクへの対応にもつながります。リバーグループは今後も、高度選別技術と再資源化を通じて、使用済みプラスチックを新たな資源へと生まれ変わらせ、高度循環型社会の実現に取り組んでいきます。
プラスチックリサイクルに関するご相談や、資源リサイクルについてお困りのことがございましたら、お気軽にお問い合わせください。








