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自然資本とは?企業経営に影響する「見えない資本」をどう捉えるべきか

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私たちの暮らしや企業活動は、水や森林、土壌、鉱物資源など自然の恵みに支えられています。しかし、こうした自然の価値は長らく「当たり前のもの」として扱われ、経営の中で十分に意識されてきたとはいえません。
近年、気候変動や生物多様性の損失、資源制約といった環境問題が深刻化するなかで、自然の価値を「自然資本」と捉え、企業経営に取り入れる動きが世界的に広がっています。自然資本の劣化は、原材料調達の不安定化やコスト上昇、サプライチェーンへの影響などを通じて、企業活動にもさまざまなリスクをもたらします。
こうした背景から、自然関連リスク・機会の開示枠組みであるTNFD(Taskforce on Nature-related Financial Disclosures:自然関連財務情報開示タスクフォース)への関心も高まっています。自然資本への依存や影響を把握し、適切に説明できることは、投資家や金融機関との対話においても重要な要素になりつつあります。

目次

自然資本とは何か

企業経営において、財務資本や人的資本といった目に見える資源だけでなく、森林や水といった自然がもたらす恵みも重要な経営基盤となっています。これらを「自然資本」と捉え、持続可能な事業活動を実現する取り組みが世界的に広がっています。

 

自然資本の基本的な概念と具体例

自然資本とは、植物・動物・水・空気・土壌・鉱物など、社会や経済活動に便益をもたらす自然由来の資源や生態系の「ストック(蓄え)」を指す概念です。例えば、森林は木材を供給するだけでなく、水源涵養や土砂災害の防止、二酸化炭素の吸収といった生態系サービスを通じて、農業・インフラ・都市生活を広く支えています。
自然資本を理解するうえで重要なのが「自然資源」と「生態系サービス」を分けて考える視点です。自然資源は、森林や河川、地下水、土壌、鉱物資源など、物理的な自然の構成要素そのものを指します。一方、生態系サービスは、自然資源と生態系の働きによって人間社会が受け取る便益であり、代表的なものとして次のようなものが挙げられます。 

  • 供給サービス:食料・木材・水・繊維・医薬品原料などの供給
  • 調整サービス:気候調整、洪水・高潮の緩和、水質浄化、病害虫の制御、土壌侵食の防止など
  • 文化的サービス:観光・レクリエーション、美的価値、地域文化や精神的充足といった無形の価値
  • 基盤サービス:土壌形成、養分循環、光合成など、他のサービスを支える基盤的なプロセス

企業経営の観点では、「自然資源そのもの(ストック)」と「そこから生まれる便益のフロー(生態系サービス)」とを区別し、それぞれへの依存と影響を把握し、経営判断に反映することが重要です。

 

自然資本が注目される背景と社会的変化

近年、自然資本への関心が高まっている背景には、深刻化する環境問題だけでなく、それらが企業経営に与える影響の拡大があります。気候変動による異常気象の頻発や水資源・鉱物資源の枯渇リスク、急速に進む生物多様性の喪失は、企業のサプライチェーンや事業継続性に直接的な影響を及ぼしています。例えば、干ばつによる農作物の不作は食品メーカーの調達コストを押し上げ、森林減少は木材価格の高騰を招きます。
こうした状況を受け、国際社会では「経済成長と環境保全の両立(持続可能な発展)」を目指す動きが加速しています。企業には短期的な利益追求だけでなく、自然資本を維持・回復させながら持続的に事業を営む姿勢が求められるようになりました。
投資家を中心に、環境への配慮を重視する企業を評価する動きが広がっており、消費者の関心も高まっています。自然資本への取り組みは企業価値やブランドイメージにも影響を与える要素となっています。


自然資本を活かす「自然資本経営」とは

自然資本経営の考え方は、環境価値と経済価値の両立を重視するものであり、将来的な事業リスクの低減につながります。

 

自然資本経営の考え方

自然資本経営とは、企業が自社の事業活動による自然資本への依存と影響を把握し、その持続的な利用を目指して経営判断に反映していく考え方です。従来の経済活動では、自然資本の制約が十分に意識されてこなかった側面があります。実際には有限であり、適切な管理が必要です。
この経営手法の特徴は、環境価値と経済価値の両立を重視する点にあります。自然環境を保全することが、長期的には事業の持続可能性を高め、企業価値の向上や中長期的なリスク低減につながるという考え方です。例えば、製造業における水資源の効率的利用や、農業における土壌管理の改善などは、コスト削減と環境保全を同時に実現できます。
業種や企業のフェーズ、事業規模によって、自然資本への依存度や影響は異なります。各企業は自社の状況を分析し、優先的に取り組むべき課題を特定することが求められます。
こうした取り組みは、TNFDなどの枠組みにおいて求められる自然関連リスクの把握や情報開示にもつながります。



自然資本経営の実践企業事例

自然資本経営の実践では、企業が本業を通じて、森林保全や水資源の保全、環境配慮型事業の展開などに取り組んでいます。
以下のような取り組みが進められています。 

  • 飲料メーカーによる水源涵養(地下水の維持・回復)を目的とした森林保全活動
  • サプライチェーン全体の環境負荷を金額ベースで評価し、経営判断に活用する取り組み
  • 保険サービスとドライブレコーダー技術を組み合わせた、野生動物との衝突事故を低減する取り組み
  • リサイクルや資源循環を通じた天然資源使用量の削減

これらの取り組みは、自然資本の維持と事業成長を両立させています。


自然資本と生物多様性の関係

生物多様性は自然資本の重要な構成要素で、企業に食料・水供給、気候調整、観光資源などの恵みを提供します。その損失は生態系サービスを劣化させ、事業リスクを高めます。例えば、水質浄化機能の低下が生産活動に悪影響を及ぼします。
ネイチャーポジティブとは、「2030年までに生物多様性の損失を止め、その後は回復に転じる」という自然の損失を反転させる考え方を指します。その実現に向けた代表的な数値目標のひとつとして、「陸と海の30%を保護する」(30by30)などが提唱されています。
世界では昆明・モントリオール生物多様性枠組やTNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)を通じて、企業に対し自然関連情報の開示を促す動きが広がっています。日本においても、国家戦略の中でネイチャーポジティブの実現に向けた目標が掲げられています。
また、こうした動きはリスク対応にとどまらず成長機会としての側面も持っています。環境省によれば、日本ではネイチャーポジティブ経済への移行により、2030年までに年間約47兆円のビジネス機会が創出されると試算されています。雇用創出への貢献も期待されています。 

参考:ネイチャーポジティブの実現に向けた世界・国の取組と企業に求められる取組 - トピックス - 脱炭素ポータル|環境省 

ネイチャーポジティブの実現に向けては、生物多様性保全だけでなく、資源利用のあり方を見直すことも重要です。生物多様性や自然資本の保全に向けた具体的なアプローチの一つとして、資源循環やリサイクルの重要性も高まっています。

これらの取り組みは、天然資源の新規採掘を抑制するとともに、廃棄物の発生抑制にもつながるため、自然資本への負荷軽減に貢献する取り組みとして注目されています。企業が自然資本との関係を見直す中で、循環型の資源利用は重要な選択肢の一つとなっています。 

近年では、自動車の資源循環を高度化し、使用済自動車から高品質な再生原料を製造・供給する取り組みも進められています。資源循環の推進は、天然資源への依存を低減し、自然資本への負荷軽減に貢献する取り組みとして注目されています。
リバーグループでは、解体・破砕・選別の各工程を高度化し、再生材の品質向上と安定供給を目指しています。 

関連記事:自動車サーキュラーエコノミー実現に向けたリバーグループの取り組み



自然資本を評価・開示する仕組み

企業が自然資本経営を実践するには、自然資本への影響や依存を適切に把握し、外部に開示することが重要とされています。近年、こうした評価・開示の仕組みが国際的に整備され、投資判断や企業価値評価にも影響を与えるようになっています。

 

仕組み自然資本の定量化と会計の考え方

自然資本の利用や影響を数値化する枠組みが進展しています。自然資本会計とは、森林や水、大気、生物資源といった自然資本の価値や状態を把握・評価し、経営判断に活用するための考え方や手法の総称です。企業の持続可能な経営を支援し、環境保全への取り組みを可能な限り定量的に測定・伝達する仕組みとして注目されています。 

具体的な手法としては、環境コスト会計やLCA(ライフサイクル評価:ISO規格に基づく評価手法)が活用されています。環境コスト会計では、環境保全のためのコストと効果を貨幣単位や物量単位で測定し、企業活動における環境負荷を「見える化」します。
LCAでは、製品やサービスのライフサイクル全体における環境影響を評価することで、資源採取から廃棄までの各段階での自然資本への負荷を把握できます。
自然資本会計は管理会計や意思決定支援ツールとして活用されることが一般的ですが、非財務情報の把握や情報開示にも活用されており、従来の財務会計とは異なる性質を持ちます。

自然の価値を完全に数値化することには限界があり、評価には一定の前提条件が伴うことも理解しておく必要があります。それでも、自然資本を定量的に把握する試みは、企業経営における自然リスクの認識や戦略策定において重要な役割を果たしています。

 

仕組み導入が進むTNFD

TNFDは、企業や金融機関が自然資本や生物多様性に関するリスク・機会を整理し、情報開示するための国際的なフレームワークです。気候変動分野のTCFDと同様に、自然に関する経営上の重要課題を体系的に把握・整理するための参考指針として位置付けられています。
TNFDは法的な義務ではなく、自発的な枠組みとして提供されていますが、投資家や金融機関の間で重視される動きが広がっています。企業が自然資本への依存や影響をどのように認識し、リスク管理や戦略に反映しているかは、中長期的な企業価値評価にも影響を与える要素として認識され始めています。
フレームワークでは、「ガバナンス」「戦略」「リスク管理」「指標と目標」といった観点から、自然関連課題を整理することが推奨されています。また、LEAPアプローチと呼ばれる手順により、事業と自然との関係性を特定し、重要なリスク・機会を段階的に評価する考え方も示されています。
TNFDへの対応は、単なる情報開示にとどまらず、自社の事業活動と自然資本の関係を構造的に見直すきっかけになります。生物多様性や水資源などの観点を経営戦略に組み込むことで、規制リスクへの備えだけでなく、新たな事業機会の発見や、持続可能なサプライチェーン構築にもつながる可能性があります。 

関連記事:TNFDとは何か?生物多様性との関係や開示の重要性まで詳しく解説

 

自然資本経営を進めるうえでの課題

自然資本経営の重要性が認識される一方で、その実践には多くの障壁が存在します。特に評価手法や制度の整備が発展途上であることに加え、企業規模や業種による取り組みの格差が課題となっています。

 

課題制度整備と中小企業への導入支援

自然資本会計の制度整備は現在も進行中であり、評価手法や開示基準は発展途上の段階にあります。TNFDのような国際的な枠組みの整備が進んでいるものの、具体的な評価指標や測定方法は企業によって異なり、統一された基準が確立されていないのが実情です。
特に中小企業にとっては、自然資本経営への対応が大きな負担となっています。サプライチェーン全体からのデータ収集や整備には多大な労力を要し、専門知識の習得も欠かせません。社内体制の構築や対応にかかる時間的・人的リソースの負担が重く、コスト面での制約も大きいため、多くの中小企業にとって対応のハードルが高い状況にあります。 

こうした状況に対し、国や自治体による支援策の充実が求められています。環境省では、ネイチャーポジティブ経済移行戦略ロードマップにおいて、中堅・中小企業への能力養成や技術開発支援を計画しており、2030年度までの継続的な取り組みが予定されています。
また、評価ツールの提供や先行事例の共有、専門人材の育成支援など、企業規模や業種に応じたきめ細かな支援体制の構築が必要です。 

参考:ネイチャーポジティブ経済移行戦略ロードマップ(2025-2030年)

 

 

課題企業・行政・地域が連携した保全体制の構築

自然資本の保全には、企業単独の取り組みだけでは限界があり、行政や地域との連携が不可欠です。自然資本は特定の地域に存在し、その価値は地域全体で共有されるものであるため、企業・行政・地域コミュニティが一体となった保全体制の構築が求められます。
現在、一部の地域では生物多様性をテーマとした官民連携のプラットフォームやアライアンスの設置が進んでいる一方で、地域におけるステークホルダー間での対話や協働による面的な取り組みは依然として限定的であり、流域間連携など多様な主体の参画を促進する体制の構築が課題となっています。 

環境省では、ランドスケープアプローチの実践に関する先行モデルの創出や、生物多様性地域戦略の策定支援を進めており、地域主導の連携を後押ししています。例えば、2025年には「令和7年度ネイチャーポジティブ地域づくり支援モデル事業(ランドスケープアプローチの実践事業)」の公募が実施されるなど、具体的な取り組みも進められています。 

企業には、地域が主導する連携の場に積極的に参画し、地方自治体や地域企業、金融機関、NPO、住民との協働を実践することが求められています。こうした共創的な枠組み作りを通じて、企業価値と地域価値の同時向上を目指すことが、持続可能な自然資本経営の実現につながります。 

参考:「令和7年度ネイチャーポジティブ地域づくり支援モデル事業(通称:ランドスケープアプローチの実践事業)」の参加募集について | 報道発表資料 | 環境省

 

まとめ|企業経営における自然資本の重要性を再認識する

自然資本は、これまで企業活動の前提条件として暗黙のうちに利用されてきましたが、今や経営リスクと成長機会の双方に直結する重要な経営資源として捉える必要があります。 

生物多様性の損失や水資源の制約は、サプライチェーンの不安定化やコスト増加を通じて、企業の競争力にも影響を及ぼします。一方で、経営戦略に自然資本への配慮を組み込むことは、リスク低減だけでなく、持続可能な事業モデルの構築や企業価値向上にもつながります。 

経営者・企業担当者が、まず自社事業と自然資本との関係を整理することが重要です。どの領域に依存し、どの領域に影響を与えているのかを把握したうえで、LCAや環境コスト会計など、導入しやすい手法から段階的に活用し、社内の意思決定に反映させていく必要があります。資源循環の推進もまた、自然資本への負荷を低減し、持続可能な経営を支える重要な取り組みの一つといえるでしょう。




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