
売却した土地にアスベストが含まれていたため裁判に。その原因とは?
2017年07月03日

目次
土砂は廃棄物?基準がないことが争いの一因
荏原製作所がヤマト運輸に売却した土地に、アスベストが含まれていたとして、それの撤去費用の負担について、両社が法廷で争っています。
これだけを聞くと、単に荏原製作所が悪者のようですが、ことはそう単純ではありません。
少し遠回りして説明します。
「土砂は廃棄物ではない」
「土砂に準ずるものは廃棄物ではない」
ということは、
「廃棄物の処理及び清掃に関する法律の施行について」 昭和46年10月16日 環整第43号 において 「廃棄物でない」 ものとして 「土砂及び~中略~土砂に準ずるもの」 が挙げられているとおりです。
それはそうでしょう。もし土砂が廃棄物だということになれば、 我々人類はすべて廃棄物の山の上で暮らしていることになってしまいます。
一方、 「アスベストは天然の鉱物である」 ということも、アスベストの定義であるので、疑問の挟みようがありません。
もちろん、この文脈でいえば、アスベストは廃棄物ではありません。
ところがアスベストを含有させたスレート(屋根)などについては、 それを廃棄する段階でアスベスト含有廃棄物となります。
では、建設残土中にアスベスト含有物が残ったらどうなるのでしょうか?
仮にフルイにかけるとしても、卒業基準を作らないとフルイのかけ方が決まりません。 そもそも、土壌中にアスベストやアスベスト含有物がどれくらい含まれていると、健康被害の恐れがあるのでしょうか?
そういえば、土壌環境基準にアスベストが含まれていません。
などなど、このあたりの基準がないことが両社の争いの一因となっています。
驚くべきことに、裁判資料によると、荏原製作所が売却した土地の アスベスト含有物の量は、都内の他の土地と同等かむしろマシなようなのです。
<土地の表面のスレート片の個数(100㎡あたり)>
・荏原が売却した土地:2.24個
・日比谷公園:8.37個
・環八植栽:30.91個
場所のイメージが湧きやすく、量が多い日比谷公園と環八だけを紹介しましたが 、実際は100㎡あたりの個数を全国各地の25ヶ所で調査しています。
それらの平均と比較しても、売却された土地の方がスレート片の量は 少ないようです。
他にも東京都内や、全国の政令指定都市の公園、住宅地、小売り店舗、 学校など400ヶ所以上でスレート片が発見されています。
戦前から使われていたスレート板が、空襲やら建て替えやらで散乱したのだと思います。
そのため、ヤマト運輸が今回わざわざ入れ替えた土(恐らく建設残土) にもスレート片が沢山混じっていたという、笑えない話があります。
だから、荏原製作所としては、これくらい普通でしょ、という主張なのです。
裁判の結果によっては、 「このレベルのアスベスト含有スレートであれば売主負担で撤去すべき」 という判例は、前例になってしまう。
そうなると、あちこちの公園、小学校や住宅地などで土壌の撤去工事が必要となるばかりか、今後は建設残土からスレート片をかなりの精度で取除く ことになり、エライことになる、という主張です。
一方、ヤマト運輸としては、住民や行政と協議したうえで撤去したもので、 今更「他の土地の状況に配慮して、少々のスレート片くらい我慢しろ」 という論理を受け入れるわけにはいかないでしょう。
それに、他の土地もこんなにひどい事になっていたなんて、今回初めて知ったことでしょうし。
どちらの主張も理解できます。どちらも被害者と言えるのかもしれません。 個人的には、ここで裁判で白黒つけるより、和解してほしいところです。 そして、それとは別途、改めてしっかりとしたルールを作ることです。
その際、土壌からアスベストを取り除く方法も検討すべきですが、 解体工事のやり方から手を付けるべきでしょう。
建物中のアスベストの 有無の確認方法と解体方法を再整備したうえで、残土中のアスベストび 含有基準を設けるべきだと思います。
さらに、奇しくも6月12日のクローズアップ現代で 「”新たな”アスベスト被害 ~調査報告・公営住宅2万戸超~」 が放送されたばかりです。
これからは、解体する以前に、現存の住宅についても調査と対策が必要です。
(リバーグループ/メジャーヴィーナス・ジャパン株式会社 シニアコンサルタント・行政書士 堀口昌澄)