
未来からの宿題|高度循環型社会づくりへの挑戦【前編】
2019年10月10日

大量生産・大量消費・大量廃棄という経済発展の枠組みは、廃棄物を巡るさまざまな問題が顕在化するなかで“発想からの転換”が求められています。こうしたなか、行政、動脈産業、静脈産業、そして消費社会が一体となって廃棄物の削減・リサイクルを進化させ、資源効率を高めていく「高度循環型社会」をめざす動きが始まっています。
ここでは、日本の廃棄物行政に豊富な知見をもつ(公財)日本生産性本部の喜多川和典氏と動脈産業の一員として環境経営を推進するパナソニック(株)アプライアンス社環境推進部の羽山和男氏をお招きし、当社代表取締役社長の松岡直人とともに、現在の廃棄物処理・リサイクルにおける課題からその解決に向けた発想、具体的な取り組みについて語っていただきました。
目次
![]() |
公益財団法人 日本生産性本部
エコ・マネジメント・センター長 喜多川和典氏
|
![]() |
パナソニック株式会社アプライアンス社
環境推進部主幹 羽山和男氏
|
![]() |
リバーホールディングス株式会社
代表取締役社長 松岡直人
|
―高度循環型社会をめざしていく上で、最初にそれぞれの立場から現状の課題認識をお聞かせください。
喜多川「日本の廃棄物処理・リサイクル行政は現在、いくつかの点で「壁」にぶつかっており、大きな転換期を迎えているという認識を持っています。その象徴の一つが、1990年代に施行された容器包装・家電・自動車など個別リサイクル法に基づく取り組みの停滞です。日本は高度成長期以降の大量生産・大量消費型社会の弊害として廃棄物量が増加し続けたことで、最終処分場がひっ迫し、不法投棄問題など廃棄物を巡る問題が顕在化しました。こうした問題を解決するために1990年代に個別リサイクル法が策定され、一定の成果をあげたことは間違いありません。ところが、法律に基づく施策が個別最適化の考えのもと、定量目標(KPI)が一定程度達成されるようになった近年は、廃棄物排出量や再生利用率・循環利用率などの達成率が頭打ちとなっています。」
松岡「当社でも個別リサイクル法施行後は家電メーカーや自動車メーカーと連携し、廃棄物処理・リサイクル事業を強化してきました。そうしたなかで、行政と動脈産業と我々静脈産業との関係が強まり、廃棄物量削減、リサイクル推進が進んだことは評価されるべきことだと思います。ただ、ご指摘のような状況が生じていることも実感しています。」
羽山「同感です。当社においても、90年代以降、「環境憲章」の制定や「環境本部」の設置など、グループをあげて環境経営を推進してきました。廃棄物対策では「製造過程で発生する廃棄物」と「製品使用後の廃棄物」の2つの削減対策に取り組み、着実に成果をあげてきたと自負しています。しかしながら、工場における削減施策においても、環境配慮型設計などの施策においても、考え得る施策は一巡し、言葉は粗いですが「やり尽くした感」があるのが現状で、新たな視点、新たな発想に基づく廃棄物対策が必要と感じています。」
循環型社会づくりで先行する欧州
喜多川「そうした点で参考になるのは、循環型社会づくりで先行する欧州です。欧州では廃棄物問題への対処・対策という観点から発想を転換して、行政、動脈産業、静脈産業のそれぞれが果たす役割のなかに経済原理を組み入れ、リサイクルや廃棄物処理に止まらず、資源効率を高めるための生産技術や製品設計などの指針を策定。これをもとに、地域を越えて動静脈産業が一体となって循環型社会を実現していく「サーキュラーエコノミー(循環型経済)」という取り組みを成長戦略と位置づけて推進しています。また、動静脈だけでなく消費社会に対しても行動を働きかける制度設計が成されるなど、社会全体で大きなイノベーションを生み出そうとしています。」
羽山「今お話しいただいた欧州における潮流のなかで、我々が注目しているポイントの一つは、消費スタイルの変革を含めた活動であることです。というのも、現状、日本で環境配慮型設計を徹底しようとしても、消費者ニーズとの乖離があるからです。例えば「ガラス」は冷蔵庫や洗濯機などデザイン性を高めるために多用され消費者の人気も高いのですが、割れないようにするためには樹脂などと強く接着する必要があります。すると廃棄時に分別できず、埋め立てるしかありません。こうした課題を踏まえて設計を見直したいのですが、「環境配慮設計」より「デザイン・美しさ」という価値の方が支持されやすいのが現状です。一方で欧州では、再生資源を使った製品の方が売りやすいということも聞きます。最近、海洋プラスチックの問題が話題になっていますが、日本の消費者にとって環境問題が “私事(わたくしごと)化”されているかどうか、やや懐疑的な見方をしています。循環型社会づくりを実現していく上では消費社会の成熟も重要な要素だと感じています。」
喜多川「欧州のなかでも、とりわけノルウェーをはじめ北欧などでは消費者の環境意識が特に成熟している印象です。確かに真の循環型社会を形成する上では、行政と動脈産業、静脈産業のそれぞれが課題の克服に取り組むとともに、消費社会の成熟が不可欠だと思います。」
日本の静脈産業が抱える課題
松岡「欧州の取り組みをお話しいただきましたが、日本の静脈産業を客観的に見た場合、産業構造的な課題が存在しています。日本には全国に1万社を超える廃棄物処理・リサイクル事業者が存在していますが、その大半は中小零細企業で、技術対応力や処理能力などに大きな課題があります。また、日本の静脈産業は地方自治体による管轄のもと、許認可を得て営む地場産業であり、受け入れ資源量の規模的拡大を図ることも容易ではありません。」
羽山「その一方で、とりわけここ数年、中国をはじめアジア各国において廃棄物の輸入が禁止され始めたことから、行き場を失った廃棄物が国内に溢れています。日本の廃棄物処理行政は今、大きな問題に直面しています。」
松岡「そうです。見方を変えれば、こうした状況は我々静脈産業にとってはビジネスチャンスでもあるわけです。静脈産業が、動脈産業や消費社会から発生する廃棄物の受け皿としての社会的役割を果たし、経済的にも成長していくためには、処理量・処理能力の向上に投資できるだけの規模を持つことが不可欠だと考えます。静脈産業を成長産業として育成していくためにも、行政には、廃棄物処理・リサイクル事業を、欧州のように環境問題と経済問題が統合された成長産業として位置付けて制度改革に取り組んでもらえるとありがたいですね。」
―それぞれの課題をクリアしていくためにどのような発想や活動が必要になるのでしょうか?
松岡「我々静脈産業が高度循環型社会に今以上に貢献していくためには、事業規模のスケールアップを図ることはもとより、技術力の向上や組織力、人的リソースの確保・育成など企業力の強化を図っていくことが必要不可欠です。そのキーワードは”静脈メジャー化”だと考えています。」
喜多川「循環型社会づくりで先行する欧州ではフランスやドイツなどに”静脈メジャー”と呼ばれる大企業が複数あり、循環型社会づくりにおける社会インフラとして大きな役割を果たしています。また、経済的にも成長産業としても大きな成長を遂げ、市場からも注目を集めています。欧州において”静脈メジャー”が誕生し、産業として成長していく上でポイントとなったのが、官から民への行政サービスの移管です。”静脈メジャー”は、民間企業として成長していくために、より広域から廃棄物収集を実践し、処理量のスケールアップを図りながら、選別処理の機械化など高度かつ効率的な選別体制を構築することで廃棄物を再資源化し、動脈産業での利活用を促しています。その生産性は高く、経済的にも大きな成功を遂げています。」
松岡「日本にも欧州のような”静脈メジャー”を誕生させるには、事業規模のスケールアップが必要です。しかしながら、先ほどお話しした通り、日本の静脈産業は、基本的には自治体ごとの許認可を得て処分する必要があり、処理量のボリュームアップを図る上での大きなボトルネックとなっています。こうした枠組みを民間企業の知恵を含めて変えていくことが求められていると思います。」
喜多川「加えて欧州では、廃棄物処理・リサイクル行政の制度設計に動脈産業が呼応してさまざまな先進的な取り組みを推進しています。国連SDGsの12番目のゴール「つくる責任 つかう責任」と深く関わりますが、欧州委員会は、拡大生産者責任※の考え方に則り、「エコデザイン指令」という法令を施行しています。ここでは、エコデザインのベースがこれまで「リサイクル」であったのに対し、一段上の「リユース」へと移行するために、使用後の製品をダイレクトにリユースするだけでなく、回収された使用済み製品を新品同様の製品にする「リマニュファクチュアリング」や修理して再利用するする「リペア」、さらには元の製品の機能・価値を上回る製品として再利用する「アップサイクリング」などがこれまで以上に求められる可能性があります。」
羽山「グローバルにビジネスを展開する当社でも、欧州のそうしたトレンドは常にウォッチしており、エコデザイン指令ついても今後、具体的な目標を立てていく計画です。特に欧州では海洋プラスチック問題に対する関心が高いため、再生樹脂の利用率の向上は不可欠です。また、欧州で進展するサーキュラーエコノミー型のビジネスモデルは大きなパラダイムシフトであり、リユース、リペア、リマニュファクチュアリング、アップサイクリングなどのコンセプトを組み入れながら、今後あらゆる産業で主流化していくことが想定されます。素材を買って製品をつくり販売するという、「売り切り型のビジネスモデル」からの転換も製造業にとっては大きなテーマの一つです。こうした潮流を的確に捉えながら、一つひとつ手を打っていきます。」
静脈メジャーが果たす役割
松岡「動脈産業がグローバルな競争を勝ち抜いていくためには、従来の枠組みを超えて廃棄物処理・リサイクルをレベルアップしていく必要がある――そうなると、その受け皿としての我々静脈産業も変わっていく必要があります。そうした認識をもとに当社グループは現在、「2025年のありたい姿」として「静脈メジャーになることで高度循環型社会を実現していく」という中長期ビジョンを掲げています。また、このビジョンに近づくために、「あらゆる分野の廃棄物を処理し、100%リサイクル化」「全国47都道府県、アジア圏でのあらゆる廃棄物を処理・再資源化」「静脈産業における社会インフラとしての役割を担える企業」という目標を定め、具体的な戦略・施策を展開しています。静脈ビジネスを通じて循環型社会づくりに貢献するとともに、社会課題解決を通じて経済的にも成長し続けていく企業グループをめざしています。」
喜多川「“静脈メジャー”という言葉をビジョンに取り入れ、日本における廃棄物処理・リサイクルの社会インフラを構築していくという姿勢に大いに期待したいですね。」
この記事は前編です。>>後編はこちらです。
この記事はサステナビリティレポート2019でも閲覧可能です。