
未来からの宿題|高度循環型社会づくりへの挑戦【後編】
2019年10月10日

大量生産・大量消費・大量廃棄という経済発展の枠組みは、廃棄物を巡るさまざまな問題が顕在化するなかで“発想からの転換”が求められています。こうしたなか、行政、動脈産業、静脈産業、そして消費社会が一体となって廃棄物の削減・リサイクルを進化させ、資源効率を高めていく「高度循環型社会」をめざす動きが始まっています。
ここでは、日本の廃棄物行政に豊富な知見をもつ(公財)日本生産性本部の喜多川和典氏と動脈産業の一員として環境経営を推進するパナソニック(株)アプライアンス社環境推進部の羽山和男氏をお招きし、当社代表取締役社長の松岡直人とともに、現在の廃棄物処理・リサイクルにおける課題からその解決に向けた発想、具体的な取り組みについて語っていただきました。
目次
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公益財団法人 日本生産性本部
エコ・マネジメント・センター長 喜多川和典氏
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パナソニック株式会社アプライアンス社
環境推進部主幹 羽山和男氏
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リバーホールディングス株式会社
代表取締役社長 松岡直人
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この記事は後編です。>>前編はこちらからご覧ください。
―新たな発想に基づく構想や、今後の取り組みについて教えてください。
松岡「欧州では静脈メジャーが胎動、成長し、サーキュラーエコノミーが進展しているわけですが、喜多川さんが紹介してくれたような取り組みを日本で実現していくためには、行政、動脈産業、静脈産業がそれぞれあるべき姿を追求すると同時に、動静脈間での対話や連携も不可欠だと思います。行政だけでも、動脈だけでも、静脈だけでも、根本的な問題は解決しません。」
必要なのは「動脈側から見た静脈産業への提案」「静脈側から見た動脈産業への提案」による協業
喜多川「そのご指摘は、SDGsでいうところの17番目のゴール「パートナーシップで目標を達成しよう」という考え方と同様のもので、新たなイノベーションを起こすためには、個々の努力だけでなく、これまで以上に幅広いステークホルダーとの協業が重要になってくると思います。経済原理を取り入れた廃棄物処理行政への転換も大きなテーマですが、民間レベルで考えるとやはり、動脈産業と静脈産業との、いわゆる「動静脈産業連携」が大きなテーマとなってくると思います。実際、これまでは、動脈側と静脈側はサプライチェーンにおいて、川上・川下という、いわば「縦の関係」で、どちらかといえば動脈側が多くの情報を持っていました。しかし今後は、両者が「横の関係」となって、廃棄物処理に関する課題を共有しながら「動脈側から見た静脈産業への提案」「静脈側から見た動脈産業への提案」による協業を推進していくことが重要になってくると思います。」
羽山「おっしゃる通りだと思います。ちなみに当社では、静脈産業側との対話のなかから新たな環境負荷削減のヒントを探る取り組みを推進しています。たとえば、環境配慮設計の施策はやり切った感があると先ほど申し上げましたが、これを打破するためにグループ内の静脈子会社である「パナソニックエコテクノロジーセンター(PETEC)」との意見交換を開始しています。設計者とともにリサイクルプラントを訪ねて対話を図ったところ、開発・設計側の一方向から考えているだけでは発想できない解決策を見出すこともありました。また、先ほどもお伝えしたように、当社は再生樹脂の再利用率の向上を図っていますが、どうしても廃棄物処理プロセスにおける「選別技術」に限界があり、ミックスプラスチックレベルに止まっているところがあります。家電製品に再利用できるプラスチックの水準を考えると、やはり「単一素材化」の追求は欠かせません。ただし、それを静脈側に対する不満として放置せず、対話や協業による解決策を共に見出していかなければならないと考えています。」
喜多川「これまでのサプライチェーンでは、川上側に位置する動脈側の要望に、川下側に位置する静脈側が応えるというサイクルでした。今後は、それに加えて静脈産業から動脈産業に対する提案力を強化していくことが重要になってくると思います。選別技術のさらなる高度化を図り、廃棄物の「高純度化」を実現するなどして「静脈産業ではこんなことができますよ」「サーキュラーエコノミーに資するこんなビジネスモデルをつくりませんか」といった、いわばビジネスショーケースを示してもらえると、動静脈連携の進展に一層貢献していけると思います。」
静脈産業は提案力を強化していくことが重要
松岡「静脈側の提案力の強化は、おっしゃる通り大きなテーマです。当社グループでも、先ほどの中長期ビジョンの実現に向けて「選別技術の高度化」を目的とした開発投資・設備投資を積極的に行っていく方針です。また、大学との共同技術研究など産官学での取り組みも加速していきます。加えて、パートナーシップという観点、そして我々がめざす”静脈メジャー”という目標を踏まえて「静脈間連携」も進めていきます。先ほども話しましたが、我々静脈産業は地方自治体からの許認可を得て事業を営んできましたが、歴史のなかで形成された地域の垣根を越えた、静脈企業間の連携が日本の静脈産業を新たなステージに導いていくカギになると考えています。」
喜多川「そうした構想は、日本の廃棄物処理・リサイクルインフラの強化につながるとともに、動脈産業のニーズに応える提案力を強化していく上で必要不可欠だと思います。」
松岡「我々はこの静脈企業間連携構想を「静脈産業プラットフォーム」という言葉で表現しています。行政制度の転換も大きな課題ですが、これはどうしても時間が掛かります。また、欧州のようなモデルも大いに参考にしますが、そのまま移管することは非現実的であり、日本は日本に合った形で高度循環型社会づくりに挑んでいく必要があります。そこで現実的な解として、地域の有力静脈企業同士が緩やかに連携していくことで、日本全体の廃棄物処理・リサイクル力の高度化を図っていくことをめざしています。具体的には、2015年に、西日本を代表する静脈企業との共同出資で「メジャー・ヴィーナスジャパン(株)」を設立し、西日本と東日本とを結ぶ静脈産業ネットワークの構築に取り組んでいるほか、全国の有力静脈企業7社による包括連携協定「ROSE」などの動きが胎動しています。」
喜多川「そうした動きが、将来に向けた資金力・技術力・組織力を持つ日本の”静脈メジャー”の誕生につながることを期待しています。また、動脈産業と一体となって廃棄物処理・リサイクルにおけるイノベーションを起こし、社会課題解決を通じて静脈産業が成長産業として成長していくことを願っています。さらには国際競争力を高めていくことにも期待しています。」
羽山「日本の製造業のグローバル化は今後も一層進展していきます。なかでもアジアにおける製造拠点は今後も増加していきますので、そうした静脈メジャーが海外にも進出し、現地における廃棄物処理・リサイクルを担うことで共に成長していけると思います。」
松岡「当社グループでは、タイに関連会社「HIDAK ASUZUTOKU(Thailand)Co.,Ltd.」を設置して、同国で80年以上の歴史をもつ企業との合弁企業というかたちで現地におけるビジネスを展開しています。今後は、静脈企業間連携を進め、技術力・投資力を高めながら日本の先進的な廃棄物処理・リサイクルの仕組みや技術をアジア圏に展開していくことをめざしていきます。」
喜多川「世界的に見て、廃棄物処理・リサイクル市場はまだまだブルーオーシャンであり、欧州の静脈メジャーは着実に海外進出を果たしています。そのなかで、リバーグループには、日本発の静脈メジャーとして進化し、成長していってほしいと思います。」
松岡「ありがとうございます。今後もそうした社会の期待、要請をもとに企業力を高める努力を継続していくと同時に、従業員の待遇や職場環境の向上など「産業としての魅力」を高めて優秀な人材を結集し、名実備えた「成長産業としての静脈メジャー」をめざしていきます。」
喜多川「日本・アジアの高度循環型社会づくりを推進するために、静脈企業間連携、動静脈産業連携をリードするグループとなっていってもらいたいと願っています。」
この記事は、サステナビリティレポート2019でも閲覧可能です。